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国際テロ捜査資料から分かる、共謀罪成立後の捜査活動に関する政府の説明の「嘘」

私たちは、政府による市民の監視について、およそ情報を与えられていません。一方政府は、たとえば共謀罪の導入にあたって、「善良な市民の皆さんには影響ありません」と言います。これは、大いなる矛盾ではないでしょうか。

 

国際テロ捜査の流出資料が明らかにしたこと

公安テロ情報流出事件とは

警察がどのように市民を監視しているのか。これを知る機会は、おそらく2つの機会に限られています。一つは、監視活動の結果が刑事訴訟において証拠として提出された場合。もう一つは、何らかの漏洩・リークによって、政府内部の情報が明るみに出た場合。前者の例が、3月15日の最高裁判決で違法とされたGPS捜査であり、後者の例が、私たちが取り組んできたイスラム教徒(ムスリム)に対する監視活動です。

2010年10月、インターネット上に、国際テロ捜査を担当する警視庁外事第三課のものと思われる捜査資料114点が流出しました。これら捜査資料には、警察庁(=国)警備局国際テロリズム対策課を頂点とする公安警察のテロ対策部門が、日本に住むすべてのイスラム教徒を対象として、彼ら・彼女らの情報を収集し、データベース化していた事実が、克明に記載されていました。

流出資料に記載されていた内容は、共に弁護団を務めた河﨑健一郎弁護士がまとめてくれています。2014年の記事ですが、共謀罪の議論がホットな今、まさに読まれるべき記事です。ぜひご一読いただければ幸いです。

資料は警視庁から流出した

念のため申し上げれば、警視庁・東京都は、訴訟において、流出した捜査資料が警視庁のものであることを全面的に争いました。しかし、2014年1月15日の東京地裁判決は、

本件データの元となった各文書は,外事第三課が保有していたものであることが認められる。

(引用元:東京地判平成26年1月15日)

と認定し、この判断は2015年4月14日の東京高裁の判決でも維持されています。

流出資料が明らかにしたこと

流出資料に記載されていた捜査の実態は、驚くべきものです。

  • 公安警察は、外国人・日本人を問わず、日本に住むイスラム教徒全員を、情報収集の対象としていた。
  • イスラム教徒の「実態把握」のために、モスクの前での張り込みが行われ、担当の警察官に対してポイント制による表彰が行われていた。
  • この結果、平成21年の段階で、イスラム諸国連合出身者約7万2000人のうち98%が「実態把握」の対象となった
  • 公安警察は、民間事業者からの情報収集を「管理者対策」と呼んで推進していた。
  • その結果として、東京農工大や電気通信大から留学生名簿を入手し、イスラム諸国人留学生179名を把握していた。
  • 主要なレンタカー会社4社(トヨタレンタリース、ニッポンレンタカー、オリックスレンタカー、ニッサンレンタカー)からは照会文書なしで利用者情報の提供が受けられる関係が構築されていた
  • インターネットカフェの会員名簿を入手していた。

詳しくは上記の河崎弁護士の記事を読んでいただければと思います。

重要なのは次の2点です。

第一に、「情報収集」は、組織規範にすぎない警察法2条1項に記載された「犯罪の予防」という文言だけを手がかりに、他に何の法的根拠もなくなされていたということです。

第二に、これら情報収集が行われていることは、インターネットを通じた捜査資料の流出という異常事態を経て初めて明らかとなったことです。この事件がなければ、私たちは公安警察がイスラム教徒を組織的かつ網羅的に監視の対象としていることをいまだに知らないままだったでしょう。私たちが警察の情報収集活動を知る機会は、きわめて限られたものです。

 

共謀罪の議論における政府のおかしな説明

私自身は、今国会で議論されている組織犯罪処罰法改正案、すなわち共謀罪に関して、詳しい知見を有しているわけではありません。しかし、多くの人々が、共謀罪の新設による政府の監視の拡大に懸念を表明する中で、政府・与党が行っている説明にあまりに多くの嘘が混じっていることは、看過できません。「嘘」の例を示します。

監視の対象になるのは犯罪者周辺だけか

元警察官僚である自民党の平沢勝栄衆議院議員は、共謀罪成立後の政府による監視の強化への懸念について、次のように語っています。

犯罪に関係がない一般の方にはまったく関係のない話で、犯罪者の周辺にいる人物には迷惑がかかるでしょうね。でもこれは、安全という面で、将来的には理解してもらわなくちゃいけません。

(引用:2017年4月1日TBS「報道特集」)

しかし、これがまるで嘘であることは、上記の捜査資料から明らかです。公安警察は、テロに関係するかもしれないという理由で、日本に住むすべてのイスラム教徒を監視の対象としていたのです。監視の対象とされた人のほとんどは、「犯罪に関係がない一般の方」であり、「犯罪者の周辺にいる人物」ではありません。

テロの嫌疑がなければ捜査が行われないのか

法務省の林眞琴刑事局長は、4月21日の衆議院法務委員会で、次のとおり答弁しています。

実行準備行為が行われていない段階にありましても、個別具体的な事実関係のもとで、例えば、テロの計画が行われ、それが実行される蓋然性があって、犯罪の嫌疑があり、その捜査の必要性が認められる場合には、手段の相当性が認められる範囲におきまして任意捜査を行うことが許されるものと考えております。

ここでは、あたかもテロの計画が行われ実行される蓋然性があった初めて、任意捜査が開始されるかのごとく説明されています。

警察による情報収集には、犯罪の嫌疑を前提としない、犯罪の「予防」を目的とする行政警察活動としてのものと、犯罪の嫌疑に基づく「捜査」を目的とする司法警察活動としてのものとがあります。

上記の説明は、犯罪行為に対する捜査活動という限られた側面からすれば、間違った説明ではありません。しかし、ここで(おそらくは意図的に)説明されていないのは、林局長が言う具体的な犯罪の蓋然性とはまったく無関係に、一定のグループに属し、あるいは属性を有する人たちが、「任意」の名の下に包括的・継続的な監視活動の対象となっている事実です。

実体法の変更だから捜査手法に変更はないのか

金田勝年法務大臣は、4月19日の法務委員会で、共謀罪の創設による捜査活動への影響について、次のとおり答弁しています。

今回の法整備は、刑事の実体法の法整備でありまして、手続法の改正ではありません。したがいまして、捜査のあり方に変更はないのであります。

先ほど述べた、国際テロ捜査における捜査手法の拡大・肥大化は、手続法の改正はおろか、刑事実体法の改正とすら無関係になされました。警察組織は、常により大きな予算・人員・権限を求めて肥大化する存在です。共謀罪という新たな捜査目的の登場は、こうした肥大化の要求への格好の栄養となるように思われます。

任意捜査を裁判所がチェックできるのか

金田法務大臣は、3月21日の衆議院法務委員会で、共謀罪ができたら、任意捜査の名の下に、さらにプライバシーが侵害されるのではないかとの質問に対し、次のように応えています。

我が国におきましては、裁判所による審査が機能しておりまして、捜査機関による恣意的な運用ができない仕組みとなっております。また、捜査機関内部におきます監督の仕組みや民事上の国家賠償制度など、事後救済制度が充実をしております。それが捜査機関の権限濫用を抑止する機能も果たしているのではないか、このように考えておる次第であります。

(引用元:第193回国会法務委員会会議録第4号

冒頭で述べたとおり、裁判所が捜査活動の違法性を審査するのは、その結果として得られた資料が刑事裁判において証拠請求されその証拠能力が問題となる場合か、何らかの理由で捜査情報が外部に漏れ、被害者が捜査機関に対し賠償請求を行う場合に限られます。これらを除けば、警察による情報収集は、常に闇の中にあります。

いやむしろ、警察は、情報収集の実態を積極的に秘匿しようとします。たとえば、3月15日の最高裁判決で違法とされたGPS捜査について、警察庁が都道府県警に対し、存在が外部に漏れないよう指示していたことが報じられています。

警察庁が都道府県警に出したマニュアルで、GPS捜査の存在を捜査書類に書かないよう指示していた。

(中略)

■警察庁が移動追跡装置運用要領で示した「保秘の徹底」3項目

  • 捜査書類には、移動追跡装置の存在を推知させるような記載はしない
  • 被疑者の取り調べでは、移動追跡装置を用いたことを明らかにしない
  • 事件広報の際には、移動追跡装置を使用して捜査を実施したことを公にしない

(引用元:GPS捜査、警察庁が存在隠すよう指示 公判で明らかに:朝日新聞デジタル

むろん、イスラム教徒に対する監視活動も、リークがなければ、私たちも、イスラム教徒の方々も、今でも何も知らないままに日々を過ごしていたに違いありません。

裁判所が捜査活動への審査権限を有するのは事実です。しかし、裁判所が審査するのは、裁判所の前に提示された事実関係に過ぎません。当局による市民の監視は、そのほとんどが、裁判所の審査を受けることなく、また私たちがそれを知る機会もなく、秘密裏に、説明責任を果たさぬままに行われています。

私たちは、監視について語るとき、内部通報者に多くのことを依存しており、そのような「リーク」がなければ、私たちは何も知り得ないことを、深く自覚しながら議論が行われるべきでしょう。

 

最後に、日本政府が、XKeyscoreと呼ばれるアメリカ国家安全保安局(NSA)のデータ検索システムを利用できたという衝撃的な報道について書こうかと思ったのですが、本日27日のNHKクローズアップ現代+で取り上げるということなので、NHKのやる気を見守りたいと思います。