ゴーサッチ氏がアメリカ最高裁判事に:少数派の抵抗を封じる議事ルールの変更を考える

アメリカ合衆国最高裁の判事として、保守派のゴーサッチ氏が上院による同意により選任されたというニュースが流れてきました。

Neil Gorsuch Confirmed by Senate as Supreme Court Justice | New York Times

 
アメリカ合衆国最高裁の判事は、大統領が指名するものの、上院の「助言と同意」が必要とされています。同意を阻止するために、これまで上院の少数派は、フィリバスター(議事妨害)と呼ばれる戦術を利用することができました。フィリバスターが行われると、上院議員100人中、フィリバスターの打ち切りに必要な60名の賛成がない限り、採決にたどり着けなかったわけです。
 
ゴーサッチ氏への同意にあたって、共和党は「核オプション」と呼ばれた戦術を用いました。議事ルールを変更し、最高裁判事への同意についてフィリバスターを終結させるために必要な票数を、60から、単純過半数(51人)に変更したのです。これにより、最高裁判事指名への同意は、単純に多数派が決定できるようになり、今回のゴーサッチ氏への同意につながりました。
 
昨年、オバマ前大統領が最高裁判事候補として指名したガーランド判事について、共和党が、選挙が近いことを理由に、上院でのヒアリングにすら応じませんでした。今回民主党がフィリバスターを行使したのは、この共和党の対応への反撃が理由となっています。公平性のために付記すれば、議事終結の要件のうち、下級裁判所の判事や行政府の長官について2013年に緩和したのは民主党です。民主党からも、共和党からも、今回の最高裁判事同意をめぐる政争は、ある種の意趣返しと移っているのでしょう。
 
意思決定のルール(たとえば日本国憲法の改正には各院の総議員の3分の2の同意が必要であるとか)には、相応の先人の知恵が詰まっていることが多いように思われます。これを、目の前の政治的目標の実現のために変更することは、超党派での合意形成のための努力をおろそかにさせ、熟議による政治から遠ざかる結果となる危険性をはらんでいます。
 
少なくとも、今回の議事ルール変更は、この先民主党が大統領と上院の多数を奪い返した際に、共和党に不利に働くことは間違いありません。議論のルールは、自らが少数派となり得ることを常に意識して検討される必要があるのではないでしょうか。
 
こうして、スカリア判事の死去によって生じた最高裁の空席は、無事に(?)保守派によって埋められ、最高裁は保守派5対リベラル派4という構成に戻ることになりました。今後のゴーサッチ判事の見解が注目されます。