今村復興大臣発言は何がおかしいのか(1) 自主避難は自己責任ではない

今村復興大臣が、記者会見で「自主避難は自己責任だ」などと述べたとして、厳しく批判されています。

自主避難は「自己責任」~復興大臣明言 | OurPlanet-TV:特定非営利活動法人 アワープラネット・ティービー

彼の発言の何がおかしいのか。少し法的に見てみたいと思います。

 

 

自主避難は「自己責任」なのか

(問)判断ができないんだから、帰れないから避難生活を続けなければいけない。それは国が責任をとるべきじゃないでしょうか。
(答)いや、だから、国はそういった方たちに、いろんな形で対応しているじゃないですか。現に帰っている人もいるじゃないですか、こうやっていろんな問題をね……。
(問)帰れない人はどうなんでしょう。
(答)えっ。
(問)帰れない人はどうするんでしょうか。
(答)どうするって、それは本人の責任でしょう。本人の判断でしょう。
(問)自己責任ですか。
(答)えっ。
(問)自己責任だと考え……。
(答)それは基本はそうだと思いますよ。

(引用元:復興庁 | 今村復興大臣記者会見録[平成29年4月4日]

要するに復興大臣は、応急仮設住宅の供与打ち切り後も避難を続ける人たちは「自己責任」であり、国には責任がないと言いたいようです。

この発言は、これまで避難区域外からの避難者(ここでは自主避難ではなく区域外避難と呼びます)についての法律や政府の方針とは大きく矛盾します。

たとえば、原子力損害の賠償に関する法律に基づいて設置されている原子力損害賠償紛争審査会は、区域外避難者について、2011年12月、以下のように述べ、東京電力が区域外避難者に対し賠償すべきと述べました。

少なくとも中間指針追補の対象となる自主的避難等対象区域においては、住民が放射線被曝への相当程度の恐怖や不安を抱いたことには相当の理由があり、また、その危険を回避するために自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面がある

(引用元:東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について):文部科学省

その後、2012年6月に制定された原発事故子ども・被災者支援法は、福島市や郡山市などの支援対象地域からの避難者について、

第3条 国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任並びにこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、前条の基本理念にのっとり、被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

と定めています。つまり、国には、国民の生命や身体を守るという責任とこれまで原子力政策を推進してきた責任という、2つの責任があることを前提に、被災者の生活支援については、国に実施責任があるとしているのです。

また、同法は、生活支援施策の基本理念として、

2条2項 被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない。

としています。ここでいう「他の地域への移動」というのが避難のことです。つまり、国は、避難を継続するか、元の住居に帰還するかを避難者自身が選べるように、両方の選択を支援することとされているわけです。

このように、これまでの政府の審査会の指針では、区域外避難は「やむをえない」とされており、また法律も、避難を継続する場合でも帰還する場合でも、適切に支援することになっています。避難の継続が「自己責任」であるという考え方は、どこでも取られていません。むしろ、避難者の住宅の確保について、国が施策を講じるよう求めているのが法律の規定です。

行政府の一番の役割は、国会が定めた法律を誠実に執行することです。法律に規定すら無視して、自主避難が「本人の責任」であると言い放つ方は、およそ復興庁の責任者にふさわしくありません。

 

国は福島県を支援すればよいのか

記者会見で、今村大臣は、「避難者支援は福島県が行う、国は福島県をサポートする」と繰り返し述べていました。

(答)このことについては、いろんな主張が出てくると思います。今、国の支援と言われますが、我々も福島県が一番被災者の人に近いわけでありますから、そこに窓口をお願いしているわけです。国としても福島県のそういった対応についてはしっかりまた、我々もサポートしながらやっていくということになっておりますから、そういうことで御理解願いたいと思います。

(引用元:復興庁 | 今村復興大臣記者会見録[平成29年4月4日]

なぜ原発事故の避難者の支援を、福島県が前面に立って担当しなければならないのでしょうか。事故を起こしたのは、(争いはありますが)十分な津波対策を怠っていた東京電力であり国です。県民を保護するという一般的な責務を超えて、ここまでの対応を福島県に求める理由は、何も説明されていません。

福島県が避難者支援を担当しているのは、直接的には災害救助法という法律の仕組みによるものです。同法は、

2条 この法律による救助(以下「救助」という。)は、都道府県知事が、政令で定める程度の災害が発生した市町村(特別区を含む。)の区域(中略)内において当該災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対して、これを行う。

と定め、災害救助法に基づく救助の実施責任を都道府県知事に負わせています。これまでの住宅支援は、災害救助法に基づく応急仮設住宅の供与として行われてきたため、福島県が前面に出ざるを得ませんでした。

しかし、これが原発事故による被災者支援の本来の姿とは考えられません。

第一に、法律の規定です。先ほど引用した原発事故子ども・被災者支援法には、被災者に対する生活支援は、国の責務であると明記されています。同法の具体的な避難者支援の条文を見ても、

(支援対象地域以外の地域で生活する被災者への支援)

9条 国は、支援対象地域から移動して支援対象地域以外の地域で生活する被災者を支援するため、支援対象地域からの移動の支援に関する施策、移動先における住宅の確保に関する施策、(中略)その他の必要な施策を講ずるものとする。

と記載されており、避難者の「住宅の確保に関する施策」は国が講じることを明言しています。原発事故子ども・被災者支援法には、その実施に当たって都道府県に頼ってよいとの条文はいっさいありません。

第二に、先に述べた原発事故の責任です。原発事故子ども・被災者支援法でも、原子力政策を推進してきた国の責任に基づき、国が被災者支援を行うこととされていました。さらに、福島第一原発事故の国の法的責任が問われた事件での初めての判決である先日の前橋地裁判決は、国が適切に規制権限を行使していれば今回の事故は防げたのであり、事故によって生じた被害について国が東京電力と並んで責任を有すると明言し、区域外避難者への賠償を命じました。そうであれば、避難者の住宅支援も、国が直接責任を持って実施すべきでしょう。

第三に、広域避難の特殊性です。今回の事故の被災者は、北海道から沖縄まで全国各地に避難しました(海外に避難した方もいらっしゃいます)。日本の各地に点在する避難者すべてを適切に支援するためには、国が前面にでるほかに方法がありません。現在は、避難者対応が福島県による支援と、福島県からの要請を受けた各自治体の独自対応に委ねられてしまっています。この3月末の住宅無償提供打ち切り後、どこへ避難したか、どのような住居に入居したかによって、避難者が受けられる支援はまちまちという、きわめて理不尽な事態が生じているのも、この国の丸投げが原因です。

 

国は避難者の実情を知らなくてよいのか

今村大臣は、対応を福島県に委ねている理由として、福島県の方が情報を把握しているからだと述べています。

(答)このことについては、いろんな主張が出てくると思います。今、国の支援と言われますが、我々も福島県が一番被災者の人に近いわけでありますから、そこに窓口をお願いしているわけです。国としても福島県のそういった対応についてはしっかりまた、我々もサポートしながらやっていくということになっておりますから、そういうことで御理解願いたいと思います。

(答)(中略)国の役人がね、そのよく福島県の事情も、その人たちの事情も分からない人たちが、国の役人がやったってしようがないでしょう。あるいは、ほかの自治体の人らが。だから、それは飽くまでやっぱり一番の肝心の福島県にやっていっていただくということが一番いいというふうに思っています。

でも、国は被災者支援を自ら行う責務がある以上、避難者の現状を自ら把握する義務もあるはずです。自分たちより福島県の方が分かっているから、というのは、そのような状態を招いた原因、すなわち「国が避難者の現状を把握しようとしていない」という事実を無視した主張です。

原発事故子ども・被災者支援法は、次の2つの条文で、被災者の意見を施策に反映させるよう国に求めています。

(基本方針)
5条3項 政府は、基本方針を策定しようとするときは、あらかじめ、その内容に東京電力原子力事故の影響を受けた地域の住民、当該地域から避難している者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
(意見の反映等)
14条 国は、第八条から前条までの施策の適正な実施に資するため、当該施策の具体的な内容に被災者の意見を反映し、当該内容を定める過程を被災者にとって透明性の高いものとするために必要な措置を講ずるものとする。

国が被災者の状況を把握していないのであれば、それは国が法律で定められた必要な意見聴取を行っていないからです。事情の分からない国の役人がやってもしようがないという発言は、悪質な開き直りにしか見えません。

 

前橋地裁判決に対する今村大臣の認識についての続きはこちら。

 

opensociety.hatenablog.jp

 

 

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